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animator interview
なかむらたかし(3)


小黒 『ライタン』の頃、なかむらさんが目指していたものは、リアリティなんですか、リアル感なんですか。
なかむら リアル…………。いや、本当に「リアル」という事を、ずっと言われ続けたような気がする。リアリティ、リアリズム、本物らしく動かすってね。今、アニメでリアルな作品というと、世界観も人物も演出の見せ方も写実的な表現をしているものを言うんだろうけれど。アニメがいつでもそれを求められるのは、アニメにある漫画的な通俗性と、その絵空事の空間や世界観を、少しでも観る側に、本当のように感じさせるためで、それが崩れると、キャラクターの存在や演出の意味が、全くなくなるわけです。それは分かっている事なんだけれど、やっかいなのは、アニメートという技術に関してだけでも、極端な事を言えば、作品が変わると世界観やキャラクターのデザインが変化し、本物らしさの表現の仕方がガラリと変わるわけです。
小黒 作品によって、求められるリアルが変わるという事ですね。それは分かります。
なかむら この事は、アニメーターという技術者にとっては、場合によっては致命傷にもなるんです。
小黒 リアル感って、時代によっても変わってますよね。今はキャラクターで言うと、『人狼』みたいに描き込みが少なくて、影が少ないのがリアルなんですよね。10年くらい前だと、影がいっぱいついているのがリアルだった。
なかむら いや、それは違うよ。アニメーターにとってのリアルさというのは、影のあるなしではないんです。それは最初から分かっている事なんです。沖浦啓之は、多分、リアル志向のアニメーターだから、極力ラインをシンプルにして動かす。影だって必要なところ以外は省く。基本的には動かす事が大前提でデザインをしたという事だと思う。勿論、『人狼』という世界観が先にあっての事だけれど。
小黒 でも、例えば『ガッチャマン』的なリアルも、あるわけじゃないですか。目の内側のポッチを描くかとか、鼻の穴を描くかとか。
なかむら 要するに動く事を重視しない、TV的、劇画的なリアルという事か。
小黒 そういうリアルもありますよね。それじゃあ、比較的キャラクターがシンプルな宮崎駿さんや、高畑勲さんの作品がリアルじゃないか言うと、そうではなくて、あのキャラクターだから達成できるリアル感があるわけですよね。もっとシンプルな『ど根性ガエル』のキャラクターのディフォルメされた芝居にしても、それだからこそ表現できるリアルさとか、ホントっぽさがある。
なかむら それはつまり、世界観を、どう本当らしく見せるかという事ですよね。
小黒 そうですね。
なかむら とどのつまり、説得力のある演出があって、その世界観が伝わらないと、アニメーターはただ動いているだけの奇怪なでくの坊を生み出しているだけなのかもしれない。それはそれで面白いとは思うけれど。
小黒 それは『ライタン』の当時も考えてたんですか?
なかむら いや、当時は考えてない。あの当時は単純に、四角い画面の中で、いかに奥行きと横幅のある空間を作るか、リアル感をいかに膨らませていくかという事を考えていたから。それはキャラクターだけじゃなくて、何十メートルの大きさのものだったら、その大きさと重さを、炎なら炎の感じを出したいとかね。
小黒 それを極力表現していきたい、と。
なかむら そう。ただそれだけで面白かった。作品全体や何を伝えたい物語なのか、全く考えていなかった。ワンカットが大事だったという気がする。そしてそのベースにはフルに動くセル画のイメージがあり、その方向が自分には興味が持てたという事です。
 ただそれも、アニメーションという豊かな表現方法で考えると、一方では何か、たがをはめられてしまったような気分も感じないわけでもありません。「リアル感」という、たがです。アニメーターという、動きを自由にクリエイトできる仕事であるはずなのに、ただ一方向のリアル志向しか持てないという矛盾……。
小黒 でも、さっき、なかむらさんがチラリとおっしゃったように、極論すると大抵の場合、アニメの演出や画は、常にリアルを求めるんじゃないですか。最終的に欲しいものが、人間や世界をそれらしく描く事であるなら、手法はどうあれ、その目的はリアル感でしかないのでは。
なかむら それしかないよね。リアルではない、別の方向ってあると思う?
小黒 例えば、画じゃないものを動かすアニメーション。粘土を動かすアニメがありますよね。ああいう手法でアニメーションを作ってる人達は、何を手に入れようとして動かしてるんでしょうね。
なかむら やっぱりそれも、ある種のリアル感だよ。粘土で作られた人間的なキャラクター、もしくはそうではないキャラクターで感情を表現した時には、観る側は、そこに人間的な感情をリアルに感じるわけだよね。
小黒 ただ、それはドラマ主体の作品の場合ですよね。表現として考えた場合、リアル感とは全然関係ない面白味もあるはずじゃないですか。例えば、表現そのものを楽しむという事があるわけですよ。
なかむら ああ、なるほどね。
小黒 つまり金田さんは、あのスタイルのアニメーションで、爆発の迫力を表現しようとしたわけだけど、その表現された形自体を面白いと思う見方もあるわけですよね。それを面白いと思って、そこからアニメーションを始めた人が作るものは、リアルを求めないアニメーションになるかもしれない。
なかむら その場合、その「動き」が目指すものは、何なの?
小黒 難しいですね。それはグラフィック的な面白さだったり、純粋に芸術的なものであったり。あるいは、それはどこにも辿りつかないものかもしれない。
なかむら うーん。
小黒 ただ、通常の劇映画であろうとする場合の、大半のアニメーションが求めるもの。日本の商業アニメに関して言えば、ほとんどがリアル志向なんじゃないんですか? リアル感を求めているというか。
なかむら うん。それはなぜかと言うと、まず基本的に、演出側に伝えたい事があって、その要請に応える形でアニメートがあるからだね。

●「animator interview なかむらたかし(4)」へ続く

(00.12.06)


 
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