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アニメの作画を語ろう
animator interview
木村圭市郎(3)


―― そう言えば『タイガー』のカメラワークに名前をつけられたとか。
木村 スパイラルカメラとフライングPANね。まあ、俺の造語だよ。スパイラルカメラっていうのは、「マトリックス」でやってるようなさ、カメラがワーッと空中上がったりするようなカメラワークだよ。これからネット上でオリジナルのアニメをやりたいと思っているんだけど、そういう動きにしたいんだよ。顔のアップからバーッと大俯瞰になったりさ、またグーンと回りこむまでを全部1カットでやるとかね。
 それからフライングPAN。普通のカメラPANで崖の上から水に飛び込むのを撮るとしたら、カメラが崖の上から横イチで、あるいはアップで捉えるわけだよ。バーンと飛びこむのをカメラが追っかけていく時は、人物を後ろ向きに撮る事になるよね。それが通常のカメラPANだよね。だけど飛びこむのと一緒にカメラマンも飛びこむわけよ。一緒に落ちていくから、途中でカメラが寄ったり引いたりできるよ。そういう感覚のものは、アメリカ映画だとすでにやっているんだよ。それをアニメでやりたい。要するに(対象と一緒に)飛んでくんだ。それをフライングPANって名づけたんだ。
―― 『タイガー』でやっていたのはフライングPANなんですね。
木村 うん。それのハシリだろうね。もっともっとしつこくド派手にはできるけどね。当時はあれでも派手だったからさ。
―― 『タイガー』はシリーズの途中から名前が出ていませんよね。若い人に任せて、みたいなかたちになるんですか。
木村 任せたんじゃない。東映の演出家達と上手くいかなくなって、それで東映から離れる事になったんだ。演出家がやりたくないと言うなら、仕事はできないからね。
―― そうなんですか。
木村 さっきも言ったように『タイガーマスク』をやっている時は、俺は演出の描いたコンテをどんどん変えちゃったりしていたんだ。それで喧嘩別れみたいなかたちで、東映から離れる事になった。だから、俺は自分の意志で東映を嫌で辞めたわけじゃないんだよ。俺が東映動画を背負って立ってるんだみたいな自負があったから、これは俺のスタジオだという気分でやりたい放題をやっていた。
 まあ当時は俺も若かったからさ、それをおもしろくないと思って、制作プロデューサーを殴ってから辞めようかと思ったんだ。だけど、楠部三吉郎が、殴ったら未練がましいよ、腹が立っても、長い事お世話になりました、と言って辞める方が格好いいよって言うからさ。俺も一晩経ったら冷静になって。ま、それもそうだなと思って、別に大暴れしないで辞めた。
 その後にまだエピソードあるんだよ。辞めてだいぶ経った時に、車に乗っていたらフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」が掛かったわけよ。その頃、長嶋がジャイアンツを解雇されていたんだ。「マイ・ウェイ」を聴いていたら、東映を辞めた自分と長嶋がオーバーラップしてさ……思わず涙が出てきちゃったんだよ。それくらい俺は、悔しかったんだ。で、前がよく見えなくなって、慌ててワイパーをかけだんだよ。だけど、前が見えないのは雨のせいじゃなくて、涙のせいだったんだ。涙が出ているのにワイパーを掛けたってしょうがないよな(苦笑)。そんな思い出があるんだよ。
―― その後、東映の仕事はないんですよね。
木村 その後は、Aプロだよ。『ルパン(三世)』とかさ。
―― 『赤胴鈴之助』とか。
木村 それから『荒野の少年イサム』とかね。
―― 前にあった木村さんのホームページに、大山倍達さんと出会ったエピソードを書かれていたじゃないですか。あれはなんだったんですか。お知り合いだったんですか。
木村 あれは『空手バカ一代』の時。
―― 『空手バカ一代』の仕事で会われたんですか。
木村 そうそう。『空手バカ一代』を(東京)ムービーでやっててさ、オープニングで、大山さんを実写を撮るっていうんで、それで行ったわけよ。池袋の極真(会館)に。それで色々話をしたんだ。その時のエピソードだよ。ホームページに書いたのは。
―― 格闘技に興味があったとか、そうわけではないんですね。
木村 ないんだよ。ないんだけど、どういうわけか俺にはプロレスとかさ、空手とか、そういうアクションものの話がきたよね。
―― 話は飛びますが、『アタックNo.1』のオープニングはおやりですか。
木村 やったよ。あのオープニング。
―― オープニングのどこですか。
木村 全部じゃないな。途中までだな。ビデオある? 観ればわかるよ。
―― こずえがボールをぶつけられるところは、木村さんですね。
木村 そうそう。よくわかったね。
―― いや、ベテランのファンの方に知恵をつけていただいたんです。でも作監の修正で、顔は直ってますよね。
木村 竹内留吉がやったんだよ。

●『アタックNo.1』オープニングのビデオを再生(以下、しばらくはビデオを観ながら)

―― ここからじゃないですか?
木村 うん。そうそうそう。これはそうだよ。覚えてる。
―― こずえが派手に尻餅をつくカット(17カット目)から、その後のボールをぶつけられるところはずっとそうですね(こずえが倒れるカットまで)。ボールを投げてる先生も描いてます?
木村 描いてる。ここら辺はそう。
―― 間違いないですね。ポーズと黄色いスパークのかたちが決め手ですね(笑)。その後のみんなが走ってるところとかは木村さんの原画じゃないですね。
木村 そうだね。ああ、ここも俺だよ(終盤のスパイクするカットが連続するところ)。
―― ああ、ここもそうなんですか。なるほど。
木村 『アタックNo.1』は1話の本編もやっているよ。水たまりのカットってない?
―― 水たまりですか。ちょっと待ってください。ちょうど1話のビデオがあります。

●『アタックNo.1』1話のビデオを再生(以下、しばらくはビデオを観ながら)

―― あ、これでしょ、水たまりって(1話Bパート後半のバレーのシーン)。
木村 ああ、そうだね。これはうちの原画だなあ。
―― 木村さんの原画じゃなくて、ネオメディアの作画かもしれない。
木村 うん。この頃は、百瀬(義行)が原画を描き出しているからなあ。百瀬は入ってすぐに原画をやり出したんだから。ただ、俺がラフをつけているけど。
―― 確かに、このダイナミックな感じは木村さんの系統ですよね。
木村 よく分かるね(笑)。この頃は、俺の弟子で長谷川ってのがいたんだよ。長谷川が中心でやっていて。その下に、百瀬なんかがいてさ。だけど、(1話の)他のところは違うなあ。部分的にやったのかな。
―― 『空手バカ一代』のオープニングもやってるんですね。
木村 そうそう。あれもやってる。
―― あれも木村さんらしい派手なアクションが、2カットくらいありますよね。
木村 あれもビデオある?
―― ありますよ。

●『空手バカ一代』のオーブニングをビデオ再生(以下、しばらくはビデオを観ながら)

―― この冒頭のカットは木村さんだと思うんですが。
木村 ああ、そうかもしれない。
―― 上から修正が入っていますね。
木村 キャラは全部楠部さんが直してるから。
―― 『空手バカ一代』って、大塚さんが描いたパイロットフィルムがあると聞いたことあるんですけど、ご存知ですか。
木村 ないなあ。そんなのあるんだ。
―― 僕も噂で聞いただけなんですけど。それが凄く格好いいらしいんです。
木村 いや、それ知らないなあ。『佐武市(佐武と市捕物控)』のビデオはあるかい。
―― ありますよ。
木村 おお、なんでもあるなあ(笑)。「稲妻小僧参上」って話があると思うんだけど。
―― ちょっと待っていてください(LD―BOXを取り出す)。『佐武市』は印象深い作品なんですか。
木村 ああ。本数はそんなにやっていない。多分、2本か3本だろ。俺が最初にやったのが、その「稲妻小僧」なんだ。今、見たら随分粗いだろうけどさ。でも、すでに『タイガーマスク』の片鱗はあるよね。
―― 『タイガーマスク』の直前のお仕事なんですね。
木村 あの頃から、ちょっと汚した感じの画にしているんだ。もともと『佐武市』のキャラクターは村野守美だっけ。どっちかっていうと角張っているようなさ。
―― つまり、当時のアニメの主流だった柔らかい感じじゃなかった。
木村 うん。俺は途中から入ってやったから、画を合わせるのは難しかったけどね。
―― 「稲妻小僧」は、35話ですね。早速観てみましょう。

●『空手バカ一代』の「稲妻小僧参上」を再生

―― どうですか、ご覧になって。
木村 やっぱりシリーズの途中から参加しているから、キャラクターも迷いながら描いてるよね。ただ汚しなんかはさ、いいところがあるんじゃない。
―― いえ、かなり格好いいですよ。確かに『タイガーマスク』に近いムードがすでに出ていますね。
木村 まあ、それも好きずきだよな。ずっとああいうタッチで、やってきているわけじゃないから。通して観ると、ちょっと違うなあという感じの仕上がりになっているんじゃないかな。それから、『佐武市』って感覚で見せる作品でしょ。演出家がそれができなくて、泣きをいれてきたんだ。それで、この話でも俺がずいぶん絵コンテをいじったんだよ。
―― 話は変わりますが『ピュンピュン丸』も、オープニングをお描きになっているんですか。
木村 やっている。『ピュンピュン丸』では、大橋(学)君なんかも悪ノリして好き勝手やって、枚数を使って、会社に文句言われたんだよ(笑)。
―― 動かしすぎですか。
木村 動かしすぎだよ。あれは今見ても面白いんじゃないかな。弁慶みたいなのとさ、橋の欄干で一騎打ちする話があったんだ。その時に演出が悪ノリして「時刻は11PM」とか言わせた話があったよ。後で上の方に「11PMなんて、よその番組の名前出すんじゃねえ」なんて文句を言われたらしい(笑)。あれは大橋君も、ずいぶん原画を描いてるよ。
―― 大橋さんも派手なアクションとか、派手なギャグとかイケたんですか?
木村 うん。大橋君も中学を卒業してすぐくらいにきたからね。
―― 当時まだ19とかそのくらいですよね。
木村 そうだよ。よくうちに泊まったりさ、もう俺の後ろをくっついて歩いてたから。
―― ネオメディアって、いつくらいにお作りになったんですか?
木村 いつ頃かな。よく覚えてないなあ。
―― 『タイガー』の途中なんですね。
木村 『タイガー』をやっている途中だね。
―― 木村さんはそこの社長だったんですよね。設立当初はどなたがいらっしゃったんですか。
木村 山口(泰弘)だよ。
―― 旧『ルパン』のネオメディアの回は山口さんと木村さんですよね。
木村 そう。半パートずつ描いてたわけ。『ど根性ガエル』は、百瀬と内山(正幸)がやっていた。それらかまた少し立ってから、北島(信幸)が入ってきたわけよ。森山(ゆうじ)や北久保(弘之)なんかが入ってくるのはずっと後だよ。
―― 70年代末ですね。『ど根性ガエル』で百瀬さん達が原画描いてる回は、木村さんは手を入れてないんですか。
木村 あれは、やってない。
―― ちょっと木村流にも見えますよね。
木村 やっぱり、俺の弟子だからね。最初は俺がラフを描いて渡しているんだ。
―― 森山さんとか北久保さんの頃は、直接の指導はしてない?
木村 いや、してるよ。サンライズがアニメで『ウルトラマン』をやったじゃない、あの後半から原画を描いているんじゃないかな。まさか、北久保があんなに名が売れるとは夢にも思わなかった。うちはね、本当に色んなのが出てるんだよ。口の悪いやつは「たまたま巧いのが集まったんだ」とか言うけどね、教えなかったら花開かないんだから。どんないい植木だって水やんなきゃ、枯れちまうんだから。うちは、みんな、オーバーアクションでトレーニングしてるんだ。
―― で、現在のお話をうかがいたいんですが、木村さんはまだまだ現役なんですね。
木村 現役も現役だよ。まあ、ペンネームで仕事する事が多いけどな。
―― 自主作品を上映会に出品されてましたよね。
木村 『たかちゃん一家とヒロファミリー』ね。あれはデジタルでやったんだ。背景もデジタルでできるっていうから、やってみたら、フラットな感じになっちゃってね。出来としてはイマイチなんだけど、あれは俺が立てた企画だよ。
―― 上映したのは、パイロットフィルムなんですよね。
木村 そう。何かないかって依頼されて作った企画なんだった。さっきも言ったように、ホームページで自分の作品を発表しようと思っているの。その時は、あれを叩き台にしてやろうかと思ってる。
―― 木村さんの作品を振り返ると、意外とギャグものが多いですよね。
木村 『(無敵ロボ)トライダーG7』を観たファンから手紙をもらった事があるよ。「木村さんは、シリアスタッチなアクションものが得意だと思ったけど、ああいうギャグも描けるんですね」とか、そんなファンレターがきたんだ。意外とオールマイティにやっているでしょ。
―― そうですね。名作ものもやってるし。
木村 だからね、アニメってのは本来面白いんだよ。それを何かみんな、暗くなっちゃってさ。だって自分の描いたものが生きてるように暴れ回ったりするんだから、楽しいはずじゃない。何かそれなのに、みんな苛めにあってるようなさ。
―― 暗そうな顔して。
木村 うん。泣きっ面をしてね。夢がないんだろうな。本来は楽しい仕事なんだよ。好きな事やってお金もらえるんだから、道楽商売みたいなものだよ。それから、やりたい事をやるんなら、作家を目指した方がいいんだろうな。アニメーターも自分の作品みたいなものを発表していった方がいい。
 だから、俺は死ぬまで現役だよ。周りを見渡して、俺が逆立ちしても追いつかないようなアニメーターがゴロゴロいたら、俺は諦めるのかもしれないけど。そんなのはいないんだからさ。いずれは死ぬんだけど、死ぬ間際までやっていたっていいんだから。定年はないんだしさ。力仕事でもないし。
―― 木村さんは、今でも力がありそうですけど。
木村 段々パワーはなくなってくるよ。だけど、電柱に登ったり、重いもの運んだりする仕事じゃないんだから。  若いうちは自分が年をとるなんて思わないじゃない。俺も若い頃はそう思っていたよ。年寄りは昔から年寄りで、みたいなね。でも、そうじゃないんだ。自分もどんどん変わっていくんだからね。
 ただ、言えることはさ、意識の持ち方でずいぶん違うって事だよ。気持ちまで、年寄りになっちゃいけないんだ。俺、東映時代に貧乏面にはなりたくないと思ってさ、時々、鏡で自分の顔を見て、しかめっ面をしたりしていたよ。苦しいからって、そういう顔をしないようにしていたの。運がなくったって、ありそうな顔してりゃあさ、運が向いてくるわけよ。
―― いい話ですね。僕らも、気をつけます。
木村 まあ、アニメと関係ない話だけどさ(笑)。

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(03.03.14)

 
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