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アニメの作画を語ろう
animator interview
ガイナックス若手アニメーター紹介(1)


 『彼氏彼女の事情』以降、『まほろまてぃっく』『アベノ橋魔法☆商店街』『ぷちぷり*ユーシィ』等における、ガイナックス新人アニメーター達の活躍ぶりは、実に目覚ましい。同社らしい美少女キャラは勿論、派手なアクションも、丁寧な日常芝居もバッチリこなす。その仕事のテンションの高さは、なかなかのものだ。
 その新人アニメーター達の、一人ひとりの個性やプロフィールが気になるところ。今回は、ガイナックスの先輩アニメーターである平松禎史、今石洋之を紹介役として立っていただき、彼らに話を聞いてみる事にしよう。なお、この取材は昨年の夏に行われたものである。

2002年8月12日
取材場所/東京・ガイナックス
取材/小黒祐一郎


●関連サイト
GAINAX NET
http://www.gainax.co.jp/
PROFILE

久保田誓(KUBOTA CHIKASHI)

1978年8月29日生まれ。東京都出身。血液型B型。東映アニメーション研究所、ジーベックを経てガイナックスへ。ジーベック在籍時は、『ラブひな』『ZOIDS』等 の原画を担当。ガイナ作品では『まほろまてぃっく automatic Maiden』、『アベノ橋魔法☆商店街』に原画で参加。『まほろまてぃっく Automatic Maiden 〜もっと美しいもの〜』1話で初の作画監督を経験。
―― 平松さんから見ると、今のガイナックスの若い方々はどのような感じなんですか。
平松 そうですね。今日紹介するのは『エヴァンゲリオン』の後に育って原画になっている人達なので、僕からすると弟君的な感じがあるわけです。だから、僕は爺役として紹介を(笑)。
―― 今石さんは年齢的には紹介される側でもいいんですが、「アニメスタイル」ではお馴染みって事で、紹介する側に回っていただきましょう。
今石 了解です。
平松 まずは久保田君からいきましょう。彼は今回紹介する中では、ちょっと変わり種で、よそで原画をやってからガイナックスにきているんです。
久保田 ええ。98年にジーベックに入って、3年くらいそこにいて、石崎(すしお)さんに誘われたのがきっかけでこちらにきました。
今石 すしおとは、コミケで知り合ったんでしょ。
久保田 ええ。コミケで知り合って(笑)。
平松 すしおは、久保田君の事を「ジーベックで、すげー仕事してる奴がいる」と言って、眼をぎらーんとさせていたんです。それで「その人を呼ぶんだ」と言って。
―― その呼ばれたのが『まほろまてぃっく』の4話(「ハート撃ち抜きます」)ですか。すしおさんに呼ばれて原画で参加して。
久保田 そのままガイナ(ガイナックス)に居着いてしまった感じですね(笑)。
―― 『まほろ』だと、どこをやったんですか。
久保田 『まほろ』の4話だと、最後カニロボットにとどめを刺すあたりから最後まで。
―― じゃあ、今石君が描いたドンパチの後だ。問題の、まほろさんが水着を直すカットはどうしてああなったんですか。
久保田 監督が山賀(博之)さんだからって事ですよね。詳しく知らないんですけど、『(超時空要塞)マクロス』なんですよね?
今石 あ、元ネタ知らないでやったんだ。
久保田 元ネタは知らなかったんです。作打ちの時にも、佐伯(昭志)さんからそんなに細かく説明されたわけではないんです。
今石 そうか、説明はなかったのか。佐伯君は100パーセント狙ってやったんだろうけど。
久保田 『まほろ』は最終回も20カットほどやったんですけれど、印象に残っているのはやっぱり4話です。『アベノ』は1話と3話だけ参加したんですけど、1話(「不思議! アベノ橋☆商店街」)は物干し台で、雅ジイが落ちそうになるところです。
―― 平松さんのコンテ、作監の回ですね。平松さん的には、彼の仕事はどうでしたか。
平松 よかったですよ。彼と組んでやったのは、あれが初めてだったけどね。なんかアニメ心を分かってらっしゃるという感じだった。作打ちでちょろちょろと説明したら、それで大体つかんでくれたから。だけど、雅ジイは描きにくかった?
久保田 いや、楽しかったですねえ。雅ジイは描くの好きでした。
平松 なんか、不思議なディテールで描いてあったから。
久保田 あれ、そうですか。
平松 うん。久保田君の画を知らなかったんで、どんな画を描くかなーと思ってて。ジーベックでやっていたと聞いてたんだけど、俺としてはどちらかというとAIC調に見えた。
―― AIC調というのは、陰を強調した感じ?
平松 ちょっと立体的で、なおかつデザイン化されている感じ。結構カチッとしたしっかりした画を描く人だなというのが、その時の印象。
久保田 そうですか(笑)。
―― で、3話(「合体! アベノ橋☆大銀河商店街」)は。
久保田 3話は板野サーカスのあたりを。
今石 3話の戦闘機は全部、彼が描いてる。発進シーンから合体バンク直前まで。合体バンクからは僕がやりました。飛行機は1枚も修正を入れてない。
―― おおー。じゃあ、相当今石心はつかんでいるわけですね。
久保田 どうなんでしょうね。
今石 1回ビデオ見せたよね。『鉄人』のオックス(『鉄人28号[新]』36話)。
―― ああ、あそこは彼なんだ(雅ジイがマイクを持って、合体を指示するカット)。
今石 彼です。1回ビデオ見せただけであれを描いてきたから。僕はなんにもしなくていいやっていう。
平松 やっぱ、勘がいいんだね。
今石 『コン・バトラー』と『鉄人』は見せたけど、板野サーカスは見せなくてよかった。
―― 改めてここで読者に説明しますが、『アベノ橋魔法☆商店街』の3話は作画パロディの話だったんですね。
久保田 後で今石さんから聞いたんですけども、板野サーカスについては、今石さんがコンテの段階でやろうとしていた板野サ−カスと、自分がやろうとしていた板野サーカスは、違うシーンだったんですよ。
今石 僕が最初にやろうとしていたのは、TVのスーパーバルキリーが最初に出てきた回(24話「グッバイ・ガール」)なんです。スーパーバルキリー自体は、画面の中央で2枚原画ぐらいでゆっくり動いてるだけで、ミサイルがガーッと広がって……そういうカットのイメージで。彼は劇場版のフォッカー機がくるくる回りながら撃つカットを。
久保田 フォッカー機が輝を助けにきて、くるくると回転しながらミサイル撃つカットです。ミサイルも上行ったり下行ったりするあたりが、凄い好きだったんですよ。それがやりたくてやった感じです。
―― まるで大学のアニメ研にきて話を聞いてるいるようだ(笑)。なるほどなあ。
久保田 昔学生時代にパラパラ漫画でそのカットを描いて。いつか原画でやりたいと心密かに思ってて。
平松 みんなパラパラはやるよね。
―― お年はいくつですか。
久保田 23です。
―― わっかー。
平松 わかーい。
―― 若くてこれかい(笑)。
今石 若くてこれですよ。
―― ちょっと待って。井上(俊之)さんが「井上塾にいるマニア」と言っていた久保田さんは、この久保田さん?
今石 この久保田君です。
―― なるほど、そうか。いや、井上さんからマニアだという話だけ聞いていました(笑)。どれくらいから、そういう活動をしていたの。
平松 活動?
今石 マニア活動ですね(笑)。
―― コマ送りしたりとか、アニメーターの名前覚えたりとか。
平松 何がきっかけだったの。
久保田 『DRAGON BALL』が原点なんです。小学校5年生ぐらいの時に、友達が『DRAGON BALL(Z)』の「アニメ・スペシャル」を持ってきて、クラスのみんなで読んでいたんです。それに、アニメーションのできるまでみたいな記事があって、作監の前田実さんや原画の佐藤正樹さんの写真が出てて、「あっ、こういう人達がやってるんだ」と思って。それで『DRAGON BALL』で名前をチェックするようになって。その後にアニメ雑誌を買い始めて、版権を描いている人の名前を覚えたり……。
―― 版権イラストで名前を覚えたんだ。
久保田 そうです。小学生の時はいちばん値段の安い「アニメディア」を買って、中学になって「アニメージュ」と「Newtype」を買うようになって。版権で名前を漁りまくって。エンディングで原画マンとかチェックして、この画柄とこの画柄が違うとか。話数が違うのに共通した画があるとか、この画はこの人が描いているんだろうとかって、1人でやってました。
―― その頃にチェックした作品はなんなの。
久保田 あ、いや大抵チェックしてたんですけど。どれかと言えば、結構AIC作品を見てたかもしれないです。OVAが全盛期だった頃なので。
今石 『天地無用!(魎皇鬼)』とか?
久保田 見てましたね。
―― 『DETONATOR オーガン』とかね。
久保田 『オーガン』も見ました。『DRAGON BALL』は引き続きチェックしていました。前田実さんが作監の話数には中鶴勝祥さんや、佐藤正樹さんが原画で入ってくるんで、ビデオ録ってコマ送りするとか、翌日学校に行ってパラパラ漫画で描いてみたりとか。
平松 久保田君の時代になると、ビデオを録るのとコマ送りがセットなんだね。
―― 平松さんは、違うんですね。
平松 うん。パラパラ漫画で『カリ城(ルパン三世 カリオストロの城)』の屋根走りとかを再現したんだけど、再現できなかった。ビデオにコマ送り機能があればちゃんと再現できたのに。
今石 なるほど。
―― どういう経緯でアニメーターになったんですか。
久保田 物心ついた時から、画描くのは好きだったんです。『DRAGON BALL』が流行ってたんで、クラスん中で『DRAGON BALL』がちょっと巧く描けると人気者になれる的なところがあって。
今石 ああ、なるほどね。
久保田 ずっと『DRAGON BALL』の模写ばっかやってて、それでアニメーターになっちゃったっていう。
―― なんか、いいね。彼は爽やかで。
今石 そうなんですよ。ガイナでこんな爽やかな奴は彼だけだろうね。他は、みんななんか屈折したものがあるから。
平松 アニメーターになる前になんかちょっと屈折があるよね。
―― 今のガイナの印象はどうですか。
久保田 楽しいです。
一同 (笑)。
今石 今までいた会社とは違うとか、そういうのはないの。
―― こんな会社だとは思わなかった、とか。
久保田 いや、だいたい思ったとおりだった。でも、もっと濃いと思ったんですよ。想像していたよりは普通でした。
―― 内部の人が?
久保田 人とか中のノリとか。
今石 それは俺も思ったな。意外と普通の会社ではある。
久保田 そうですね。
今石 たぶん、『(ふしぎの海の)ナディア』の頃とか『王立(オネアミスの翼 王立宇宙軍)』の頃は相当濃かったと思うんだよね。ほんとに、常軌を逸してたと思うんだけど。
―― 「みんなが摩砂雪さん」とかそんな感じね。
今石 そうそう。
平松 「みんなが摩砂雪さん」か(笑)。
久保田 凄すぎる(笑)。
今石 摩砂雪さんがもう4、5人いるようなもんだと思うんだよね。そうだとすると凄いだろうなって。
―― 今後はどんな風な仕事をしていきたいと思っていますか。
久保田 うーん。まあ、動かすのが好きなんで、たくさん動かせるアニメをやっていきたいです。ガイナにいると興味のある仕事が色々できるんで、その点はストレスなくというか。毎回毎回楽しく取り組んでいます。
―― 平松さんから何か。
平松 自分がやる作品は、ガイナとしては地味になりやすいので、いつもどこを振ろうかなって考えるんだけど。でも、彼みたいにアクションを振りたい人がいると非常に心強いです。
―― 今石さんはどうですか?
今石 こういう人が1人いると、コンテで大変なシーンを描いても「こいつに描かせてりゃ大丈夫だろ」と思えるかな。
平松 ああ、なるほどね(笑)。
―― 話は前後するけど、『アベノ』の3話でタコハイを描いたの誰?
今石 あ、彼ですよ。あれは注文なしです。
―― それは分かっているね。
今石 分かってますね。しかもあの戦闘機の下にVF―1Aの頭がついているんですよ。設定には下向きの設定ってないんです。彼が勝手に描いてる。
―― 勝手に頭をつけた(笑)。
今石 頭をつけてきて、回転もする。
久保田 もしかしたら変形するかもしれないと思って。
今石 (笑)。
―― 板野さんにはいつハマったの?
久保田 高校の時に板野さんにハマって。中学時代には大張さんだったんですね。
―― 逆進化をとげてるんだ。
今石 そんなに大張さんにハマったの。
久保田 そうですね。パラパラ漫画で、大張さんのタイミングを結構研究してたんですけど。でも、大張さんって、若い頃から活躍してたじゃないですか、僕は「勇者シリーズ」以降の大張さんしか知らないんです(笑)。
―― ああー、なるほど。
久保田 高校1、2年ぐらいの時に『マクロス7』が放映されたり、『MACROSS PLUS』が発売されたりして、ちょっと『マクロス』が流行ったんです。まあ流行ったのは自分の中だけで、クラスでは流行ってないですけど。
一同 (笑)。
久保田 それで板野さんの名前を知って、前の『マクロス』のビデオをレンタル屋で借りてきたり。その関係で後藤雅巳さんにもハマって、ミサイル好きになった。高校時代のパラパラ漫画はほとんどミサイルなんですよ。
今石 素晴らしい。
―― 逸材ですね(笑)。


PROFILE


すしお(SUSHIO)

1976年11月5日生まれ。東京都出身。血液型B型。代々木アニメーション学院を経て、ガイナックス。石崎寿夫、石崎すしお名義での仕事もあり。『彼氏彼女の事情』『フリクリ』等に原画で参加。『まほろまてぃっく automatic Maiden』4話で初めて作画監督を務める。『おジャ魔女どれみ』シリーズ等、東映アニメーション作品への参加も多い。
―― すしおさんと言えば、ガイナックスの若手の中でいちばん話題になる事が多いと思うんですけど。
今石 そうですね。
平松 (版権[アニメージュ2002年1月号]を取り出して)『まほろ』だと、こういうイメージが多いよね。
今石 夕日?
平松 夕日系だよね。
今石 すしおのツボはこの辺なの。
すしお そうですね。
今石 この版権は、貿易センタービルが崩れた後で。事件の写真を見ながら描いてたよね。
平松 よくあの直後にこれをやるなと思った。
すしお 我慢できなかったんです。
平松 我慢できなかったのか(笑)。『カレカノ』(『彼氏彼女の事情』)3話が初原画だっけ?
すしお そうですね。いや、『(ジェネレイター)ガウル』が先です。『ガウル』の3話。
―― 彼は、ガイナックス生え抜きなの?
今石 ガイナに入って、ガイナで動画と原画やって。
平松 『カレカノ』の時は、勝手にやってたよね。俺はあんま直した記憶がない。レイアウトは直したけど。
すしお そうでしたっけ。はは、よく分かんないっす。
―― 『カレカノ』でのすしおさんの代表的なカットってどこになるの。
今石 『カレカノ』の時は、彼はめちゃめちゃ動くところをやっていたわけじゃないですね。むしろ、その後の方が。
すしお 原画を三日三晩やってみるまでは、あんまり仕事に興味なくて。『(小さな巨人)ミクロマン』で今石さんの「ミクロパワー全開!」でしたっけ。走ってきて空中で変形するカット。あれを見てから、なんか動かすの楽しいかもと思い始めて、色んな動きを研究し始めたんです。
一同 ええ!?
―― そんなに最近なの!
すしお それまで、ほんとにキャラにしか興味なくて。業界入るまでに知ってたアニメーターっていうと中沢一登さんと本田雄さん。
―― なるほど。それも中沢さんや本田さんの動きのところじゃなくて。
すしお 画です。版権とか。「ああ、なんてかわいい画だ」と思って。なんか……。
平松 『カレカノ』のあの、版権やばかったよね。
すしお あはははははは。
今石 きたねー。
一同 (笑)。
すしお やばいっすねー。
今石 かなり版権を描いてたんだよね。『カレカノ』の時。
すしお 相当愛情込めてたんすけどね。
平松 こう本人が凄く燃えてるから、突っ込みたくなっちゃう(笑)。
―― 似てたんですか。
平松 あまり似てはいなかった。
―― エッチだったんですか。
平松 どっちかっていうと可愛い。アイテムとか凄い描き込むのは当時から好きだったな。部屋の中のクッションとか。机の上の小物とか凄いいっぱい描いてて。
すしお そういうところだけは、一所懸命なんですよ。
平松 あの頃の事を考えると、今の成長の仕方は凄いと思う。
今石 それはそうですね。
平松 昨日描いた画が嫌になるタイプだよね。そうでもない?
すしお あ、結構長持ちしますよ。
平松 あ、ホントに。
すしお 描いてから一週間くらいは調子こくんですよ。「いいの描いちゃったよー。今石さん見てくださいこれ、いいっすよねー」みたいにやってるんだけど。一週間後くらいに「俺はなんて事してしまったんだー」って。
平松 なるほど。
今石 見てて面白いですよね。
一同 (笑)。
すしお 千羽(由利子)さんがインタビューで、自分の画の賞味期限が2日ないとか言ってたじゃないですか。だから巧くなるのが早いんだなあ、とか思って。
一同 (笑)。
すしお 俺は1週間とか1ヶ月とか天狗でいるから、なかなか巧くならない。
平松 なるほどね。その天狗期間にポンと言って、へこませるのが楽しいんだ。叩き甲斐のあるキャラ。
今石 一言、キツイ事を言ったら辞めちゃうんじゃないか、という人もいるわけじゃないですか。そういうのに比べると。
平松 彼は次に、叩いただけの事はある仕事をしてくれるから。
すしお 結構ダメ出しされるのは好きなんですよ。前は、鶴巻さんが結構ダメ出ししてくれたんですけど。引っ越しして、机の配置が変わってから、あんまし誰も言ってきてくれなくなっちゃって。
―― すしおさんの代表作というと『おジャ魔女どれみ♯』のオープニングですかね。
すしお あれは鶴巻さんに「いつも動画みたいな原画を描いてる」って言われたんで、なるべく動画が入らないような原画を描いてみようと思って描いたんです。
―― 動画みたいっていうのは?
すしお 動画の仕事の分の画まで、原画を描いちゃってる。
―― あ、なるほどなるほど。枚数をいっぱい描いてるんだけど、少ない原画と中割でも再現できる動きだったんだ。
すしお そうそう。「全く意味ないよ」って言われて。
一同 (笑)。
すしお それでなるべく動画的な画のない原画を描いてみたんです。
―― 『♯』のオープニングはどこら辺を。
すしお えーと、(タイトルが出た後)タップがくるくる回ってそこに音符がハマってって、で、どれみ達が変身するところとその後のカットまでですね。
―― その後が今石さんの原画ね。『も〜っと!(おジャ魔女どれみ)』はアイキャッチもやられたとか。
すしお アイキャッチはやりましたね。ネット上で「ドドがかわいくない」って言われて、凄いショックだった。
一同 (笑)。
すしお 俺、ドドがやりたくて『どれみ』やってたのに。いっちばん情熱込めたところだったのに「ドドがかわいくない」って言われて。がびーん。
―― 他に、すしおさんの仕事というと?
今石 そうですねー。やっぱり『ミクロマン』あたりから弾けてきたなあ。爆発とか楽しんで描くようになったのも、『ミクロマン』あたりからですね。
すしお そうスね。
今石 て言うか、『カレカノ』は爆発なんかなかったですからね。そういう、うっぷんは、やっぱり僕だけでなく、みんな溜まってたから。ロボットとか爆発とかそんなんばっかりのやろうという事でやったのが『ミクロマン』だったから。それでまあ、やらしてみたら面白いほどいっぱい原画を描いてきた。
―― 26話(「満月の恐怖! 悪の手先ロボットマンA!!」)だとどこをやってるの。
今石 26話だと、Aパートの方で基地がどーんと爆発して、パソコンやトイレが火吹くところ。
―― ああ、あの爆発の前に便器が火を吹いたりするところね。
すしお あのカットの撮出しやってる時に、佐伯さんが「まあ、もう少し経てば、格好いいフォルムとか描けるようになるよ」とか言ってきたんすよ。俺は格好いいと思っていたのに。
一同 (笑)。
すしお 「俺のこれは格好よくないって事か?」って。こんにゃろー。今見るとやばいんだけど。当時は、凄いの描いちゃったー、って思っていたから。
今石 あの時、そういう新鮮な情熱が感じられてよかったね。俺とか、その頃でももう爆発とかなん枚描けばどうなるとか、なんとなく見当ついてるから。ここを描くのは面倒臭いなーみたいな事も考えながら描いちゃっていたんだけど、すしおのは、爆発描いてるという状況だけで楽しい、という原画だったから。
平松 それは凄く重要な事だと思うね。
今石 そう。いちばん大事な事なんだけどね。
すしお あの頃がいちばんテンション上がってたんすよ。ちょうど動きに興味を持って、試行錯誤を始めてたから凄い面白い時期だったんです。「俺、天職だよ」とか思いながら仕事してたんですよ。
今石 仕上がりは、39話(「無敵の戦闘要塞!! ジャイアントアクロイヤー!!」)の方がよかったんじゃないの。どーんとビルに穴空いたりとか、レーザー発射して、とか。
すしお そうなんですね。でも、今見ると足りない。
今石 まあね。
すしお もうちょっと、考えろよ、みたいな。
今石 「あと、もう1枚2枚」とかあるんだけど。
すしお なんか地味なんですよね。
今石 うーん。
平松 彼は『今僕(今、そこにいる僕 NOW AND THEN,HERE AND THERE)』もやってます。1話で煙突がぽこぽこ倒れる、いちばんスペクタクルなところを。
すしお はあ。倒れるの、はええよ! って感じですよね。
平松 あれは俺の(コンテの)尺も早いんだけど。早いなりに、もっと色気を出せと思ったのに、あなたは、それをやる前に燃え尽きてたから(笑)。「こっから先だよ」って言ってるんだけど、「いや、次の機会に」とか。「次で頑張ります」とか(笑)。
すしお え、そんな事を言ってましたっけ。
―― 一回原画が上がってから、もっとよくなるから直したらと言ったんですね。
平松 そうです。せっかく煙突が屋根の上に倒れてんだから、やっぱり破片を散らしたりした方が効果あるって言ったんだけど。彼は煙を描くので燃え尽きちゃって(笑)。そっから先に行かなかった。当時はね。
すしお そうやって数々の作品を犠牲にして、ここまできました(笑)。
今石 『デジモン』はよかったよ。『ディアボロモンの逆襲』。
―― どこやったんですか?
すしお ネット世界に入ったところで、ディアボロモンが壁を作るじゃないですか。そこから攻撃を受けたディアボロモンが、ふいーと落ちていくところまでですね。
今石 大張パンチみたいなのを描いていたよね。
すしお そうそう。みんなに「大張パンチだ」って言われたんです。だけど、俺は大張さんのパンチは知らないから。
―― え! そうなんだ。
すしお そう。「俺のオリジナルなのに〜」とか思って。
一同 (笑)。
―― じゃ、すしおさんはそんなに今石さんの教育は受けてないんだ。
すしお うーん。受けてるのかな?
今石 結構色々言ってるけれども、すしおは、アニメーターになるまではもう。
―― キャラしか見ていなかったから?
今石 いや、『AKIRA』とかね、大友克洋を。
すしお 大友さん一色だったんですよ。『AKIRA』しか興味なくて、もう家でも『AKIRA』ばっか観てて、親から禁止令が出るくらい『AKIRA』見てて。
一同 (笑)。
―― アニメ? 漫画?
すしお アニメです。もうずーっとバイクシーンとかを観てました。
平松 ああ。
すしお 「うひょー」とか言って見てたんですけど。
今石 彼は、STUDIO4℃とか森本(晃司)さんとか、あっち系のアニメじゃないと格好いいアニメじゃないと思っていたから。
すしお そうなんです。だから、『ど根性ガエル』とか「なんでこれ影入ってねーのかな。手抜きかな」とか思ってたんすけど、今石さんからビデオを借りてみたら、もう全てがいいんすよ。美術も話もキャラもキャラの性格も、全てがよくて。あ、こういうアニメもあるんだと思って、アニメをジャンルを分けて見れるようになったというか。
―― で、今のすしおさんはキャラもいければ、アクションもいけるという。
今石 レイアウトで描き込め、と言ったら鬼のように描き込んでくるし。
―― 煙も描ける。
すしお もっと格好いい画を描きたいんすけどね。
平松 煙はテーマなの?
すしお いや、そういうわけじゃないですけど。テーマを設けているわけじゃなくて、その時のブームがあるんです。『STEAM BOY』の仕事受けた時は、めちゃくちゃ煙ブームだったんすよ。今石さんにも言ったんすけど、「ちょっとハリウッドの奴らに煙でも見してやるか」って。
一同 (大爆笑)
すしお そんな大口を叩いていたんすけど、描いてみたら、とんでもない。あ〜あんな事を言うんじゃなかった。もう、最悪ッスよ。また調子に乗ってる時にやったんで。
今石 面白いなー。
―― 面白いなー。
すしお なんとか直したいんですけどね。この調子に乗るクセを。
今石 いや、いい。
―― 大事な事だよ。取り柄だと思うよそれは。で、代表作は『まほろ』?
今石 『まほろ』の4話ですね。
すしお でも、よかったと言われるシーンが今石さんのところだったり、吉成曜さんのところだったりするから。「やっぱりいいところはあそこなんでしょ。分かったよ、あそこは、格好いいよねー」みたいな(笑)。俺が持ったのは、ヤンキーのところとかなんです。あの時は『ONE PIECE』にハマっている時だったんで、ヤンキーが『ONE PIECE』っぽいんです(笑)。
―― 女の子がカニロボットに襲われるところとかよかったよね。
すしお あの頃は凄い『ど根性』を見てて、めちゃくちゃ『ど根性』ブームだったんですよ。だから、可愛いフォルムで中なしの動きというのを追究してて。
今石 あーなるほど。浜にいる女の子がいいんだよね。髪の先がクルンってなってる。ウサギのついた水着を着た。
すしお あれは、転んだ時にウサギがいて。
今石 ああ、そうなんだ。そういえば、言ってたな。
平松 平面ウサギだったのか(笑)。
―― 『アベノ』はなん話を?
すしお 3話と5話と7話と12話ですね。5話は怪獣王女のところ。ブーメラン投げるとこと、ブーメランを投げようとして止められるとこ。『アベノ』は楽しかった。
一同 (笑)。
すしお なんの制限もないってこんなに気持ちいい事なのか。
今石 そういう仕事をやっていると、時々不安になるでしょ。
―― てんちょさん(佐藤裕紀PDのニックネーム)が、5話は目もくらむ勢いで枚数を使ったって言ってたよね。6000枚だっけ。
平松 6000枚? それは凄い。
今石 すしおは『アベノ』3話ではAパートの後半やっているんですよ。みんなで鬼を撃つところとか、鬼が巨大化したりとか。アベノエンジェルの3人が急に合体して、どーんと飛んでいくところも彼。
平松 エフェクトを実線で描いたんだよね。
すしお あの時は『PARTY7』ブームがきてて。
一同 (笑)。
―― もの凄い勢いでいろんなブームがきてるなあ。
今石 実線ってのが大事だからね。
すしお すぐ影響受けて、すぐ描きたくなっちゃうんですよね。
今石 その辺が気軽にできるのが、いいんじゃないかと思うけど。『アベノ』は3話よりは、12話(「大逆転!?  アベノ橋魔法☆ハリウッド商店街」)の方がよかったんじゃない。「インディージョーンズ」風の。
―― ああ、あの竜巻がそうなんだ。
すしお 12話は悩みまくった話数なんです。3話と5話は、テンション上がりまくってたんで何も考えずに描けて、楽しくてしょうがなかったんすよ。でも、12話に入る直前に「なんか俺っていつも同じ画を描いてんな」とか思い始めて、いきなり試行錯誤を始めちゃって、「ギャグ顔も全然いけてない、エフェクトもしょぼいみたい」な感じでずーっと悩んでて、いい画が描けなかったというか。何描いてもダメな画にしか見えなくて、ああ、もうダメだ。
―― と言ってますが。
今石 俺は「ああ、いつものすしおだな」と思った。
一同 (笑)。
すしお あ、悩んでも変わんねーんだ。
今石 竜巻は、リピートのスライドみたいなのを描いていたよね。
すしお 確か、あの竜巻のところのレイアウトを描こうとしている時に、佐藤(裕紀)さんに『AKIRA』のガシャポンのフィギュアをもらって。で、それがきっかけで『AKIRA』のDVDを見返したら、ビルブームがきちゃって……。
今石 あー、ビルブームだったんだ(笑)。
すしお ダメモードに入ってるんだけど、ビルブームがきたので、竜巻の中にビルを……。
平松 いきなりすーごい描き込んでたよね、ビル。細かい物が色々落ちていったり。
すしお 俺も飛んでんですけどね。
平松 あ、自分も飛んでんの。
すしお ジャージを着た俺が、こう……(アメリカンな屋台と一緒に、彼がビルの壁面を滑り落ちていく)。
一同 (笑)。
―― え、自分で自分を作画したの?
すしお 目立ちたがり屋なんです。
―― なるほどなあ。今後はどういうふうにいきたいの?
すしお やっぱ、フォルムを追究したアニメをやりたい、と思ってます。リアル路線よりは格好いいフォルムとか、かわいいフォルムとか、そういうのを追究して画を描いていきたいな、と思っております。
今石 こないだ美少女描きになるとか言ってなかった?
すしお そうすね(笑)。美少女ファンをつけて儲けよう、みたいな。
一同 (笑)。
今石 なんで儲かるの、それで。
すしお いや、そこが頭の悪い俺の考えというか。美少女描ければなんか儲かるんじゃないか、と。
今石 そういう漠然とした考えが。
一同 (笑)。
―― 話は戻っちゃうけど、『どれみ』の馬越(嘉彦)さんの作監のピアノの回(『♯』40話「春風家にピアノがやってくる!」)で、派手じゃないけど目立った原画を描いてたよね。
すしお あ、あれはもうめっちゃくちゃ燃えてましたから。魔法でピアノを出すところのエフェクトに気合いを入れた。それと、ぽっぷちゃんが部屋から出てくるところ。ピアノを出した後に、ぽっぷが「うん」と言って部屋から出てくるカットがあったんですよ。そこの走りに気合いを入れたというか。
―― その前の、どれみちゃん達が他の4人とピアノの事を相談しているあたりもそうだよね。おんぷが「MAHO堂で練習したら?」と言うあたりとか。
すしお そうっす、そうっす。
―― あの時は何ブームだったの。
すしお あの時は『どれみ』ブームですね。『どれみ』で印象に残っているのは、クリスマスの話があったじゃないですか(第1シリーズの45話「サンタさんを救え!」)。どれみがサンタさんにお願いする時に振り向くんですよ。で、振り向く時に目パチを入れるか入れないかで3分くらい悩みました。
―― 3分?
今石 3分かい。
―― 長いのそれ。
すしお 長い。
今石 すしお的には長い。
すしお 長いッスよ。
今石 すしおは随分手が早いもんね。
すしお 気持ちが高揚している時は、あんまし考えないというか。
今石 なるほど。『まほろまてぃっく』で初作監やった時も、よどみなく仕事したよね。
―― 『まほろまてぃっく』の4話は画に葛藤が感じられないところがいいよね。「俺は水着の女の子ばかり描いていいのか」とか考えていないところがいい。
今石 そう。それが凄いなと思う。俺は初作監の時、悩みまくったから。
すしお 自分の見たいものを、ひたすら描いたとかいう感じですね。
今石 俺の初作監の時は、人の原画に修正を載せた方がいいんだろうか、どうしようかなんて悩んだよ。一回修正の下書き描いて、やっぱりそのまま通すとか無駄な事いっぱいやってるから。すしおは、直すところは決めて、さくさくやってたから。
すしお そうすね。
―― あ、今石さん、泣きそうになっている。
今石 あ、いや。ちょっと自分の昔の事を思い出しちゃって……。
一同 (笑)。

●「ガイナックス若手アニメーター紹介(2)」へ続く

(03.01.30)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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